〜遣らずの雨〜

時々。
まるで身の内から噴出して来るかように、人恋しい時がある。
いつもは人の世よりも、文書書物の世界に埋れていたいと思っているのに。

ただ最近は。
漠然と恋しいのではなく、明確にひとりの相手を指しているのがわかる。

しかしそれでも。

彼の人と逢える時間は限られている。
だからそれは、噴出す間も無くその対象が消えてしまう。

だからそれは、『形』には成らなかった。
しかし今日。
雨が。
彼の人が立ち去ろうとした、正にその時。
天の水瓶を引っ繰り返したような、激しい雨。



「おおっと。こりゃァ…」
稲光に首を竦めるようにして、又市は天を仰いだ。
「今時分、こんな雨たァ…どんな料簡でェ」
「すごい雨ですねぇ。少し小止みになるまで、待った方がいいですよ」
ざあざあと降る雨に、百介の声は掻き消されそうに小さい。
又市の返事は無く、ただ外を見ている。

不意に、風が吹き込んで蝋燭の炎が揺らぎ、又市の影が動いて見えた。
「又市さん…!」
考えも無く、手が。
又市の肩を捕らえ、抱き締めていた。
「どうしやしたィ、先生。驚くじゃァありやせんか。いってェ何事で?」
言葉とは裏腹に落ち着いた声は、笑みさえ含んでいるようで。
それが百介には、とても悔しかった。

でも。

「ああああすみません、又市さん。でも…っ、でも、暫くでいいんです。このままで…せめて雨が小降りになるまで」
言い訳めいた言葉を呟きながら、小柄な身体を抱き締めた腕に力込める。
又市は別にそれを払うでもなく、小さく息を吐いた。

じわりと闇が。
いつの間にか蝋燭は消え、時折閃く稲光が物の形を明確に写し出す。
光の後には、より一層深い闇が訪れる。
そろりと闇の手触りを確かめるように、百介は腕の中に捕らえたものに頬を摺り寄せた。
冷たく、かさついた肌の感触に、疎らな髭があたる。
耳の金輪は更に冷たく、百介を挑発するように、光の中に残像を置く。


ざあざあと、雨の音が。
他に何も聞こえない。

このまま雨が止まなければいいのに・・・

百介はそう、心から願った。








未消化?てかヒネリが足らない?
実際問題、時々発作的に又さん抱き締めて、頬っぺたスリスリしたくなるんですが・・・(遠い目)
うち居る御行殿は、やはり冷たいです・・・


<05,02,05>




















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送