〜森 羅〜

足の筋を、切ってしまった------




いつものように怪談奇談を求めた旅に出て。
それなりの収穫を得て帰ってきた。

やれやれと腰を下ろし、履物を脱いだ。

「・・・・・?」

左足の親指が、だらりとして動かない。力を入れても、まるで反応が無い。
痛みは少しも無かったが、それが余計に変な感じだ。

さて、どうしたものか・・・と、動かぬ足指を眺めながら思案している処を、若隠居のご帰還なりや?と様子を見に来た奉公人に見つかってしまった。
即刻、医者坊が呼ばれ、手当てと処方が施された。

医者坊の見立てを聞きながら、嗚呼、そう謂えば・・・と百介は思いあたる。
山中で迷いかけ、日が暮れる前には何とかしたいと、根っこがうねる坂道を、物凄い勢いで駆け下りたっけ・・・
その後は野宿だったから、履物は履いたまま。
思えばあの後から、少々歩き難いとは感じていたが、疲れたからだと思っていた。

「それも有ったんだろうが」
医者坊は呆れたように言う。
山を下りるのに必死で、筋が切れた事に気が付かなかったんだろう、と。
気が付かなかったから、ここまで歩いてこれたのだ、と。

「しかし今からは、歩いてはいかんぞ」
そう、釘を刺された。
日にちが薬と、ゆっくり養生するように、と言い置いて、医者坊は帰っていった。


養生といっても、別段何が変わるでもなく。
元からあまり、出歩く方ではない。
食事は三度三度、母屋から運んでくれる上げ膳据え膳。自分で動かなければ飢えるワケでも無い。
丁度、聞き集めてきた話もある事だしと、百介はのんびりと構えていた。
どこから知ったか貸し本屋の平八が、お見舞いです。と本と饅頭を持って現れた。
事情を知った版元の蔦屋なんぞは、相変わらずの悪態をつきながらも、手じゃァなくてよござんしたねぇ・・・と言ってくれたのだ。

そんな皆の気遣いが、嬉しいような、くすぐったいような・・・
自分はつくづく恵まれているのだと、百介は実感した。




「そりゃぁ、そうでございやしょう。先生はァ恵まれてなさる」
何日か経った夜。
又市が現れた。
見舞いだと言って、持参した水菓子を窓越しに渡して帰ろうとするのを、引き止めた。
今は本に囲まれて、差し向かいで座っている。
「ええ。私もそう思います」
そう言って、百介はくすぐったそうに笑う。しかしすぐに、その瞳に陰が差す。
「それに甘えてばかりなんです。私は・・・」
そう呟いて俯いた。
「先生」
すかさず又市が声をかける。
「それが先生の、分
(ぶ)なんでやしょう?」
「分・・・ですか?」
「へい」
顔をあげた百介に、又市は先を続ける。
「森羅万象。この世のモンにゃあ、生まれた時から決められた分があるんで。それを使い惜しみしちゃァ、いけねぇ」
「惜しんでなんか・・・」
「いいや、先生は惜しんでなさる。態と自分を貶めようとしなさってる。いけやせんぜェ、そんなのは。他の者に失礼だ」
「又市さん・・・私は」
身を乗り出そうとして、百介は顔を顰める。
足に捲かれた包帯が、きしりと軋む。
それを見て取った又市は、素早く立ち上がった。
「おっと先生、無理しちゃいけねぇや。奴
(やつがれ)はそろそろ、お暇しやす」
「又市さん・・・!」
名を呼んで、今にも去ろうとする御行の衣を捕まえんと手を伸ばす。
しかし。
足の痛みに一瞬躊躇した隙に。

又市の姿は、闇に溶けるかの如く消えていた。





「又市・・・さん・・・・」
もう一度、名を呼んで。空を掴んだ己の手を見つめる。
「私は・・・使い惜しんでなんか、いませんよ・・・使い切ってしまってるんです」

だってほら・・・と、闇に向かって手を伸べる。

「こんなにも欲しい物が、手に入らないじゃないですか」


足に捲かれた包帯が・・・痛い。

それはまるで。
百介を此方側に繋ぎ止める足枷のようで。



今までに無い、痛みを感じた。





〜了〜





短い割りに、悩みまくりな代物・・・(爆)

基本的にアニメベースで書いてるので、又さんの百介センセへの対処の仕方がね〜。
冷たい…つか、退いてる…つか・・・?

あんまり触らせてくれません〜〜!しくしく
いや、だからこそ百センセは必死になっちゃうんですけどね(苦笑)

これが小説版又市だったら、足が痛む百さんに手を差し伸べてくれてるんじゃないかと・・・(ドリーム入ってます?)
ええそう。もっと二人が幸せな話が書きたいんだよ〜〜〜!!(遠吠え!)
でも、あの物の怪ムード漂う又さんのイメージは壊したくないっ!!あうあう
ジレンマです。ジレンマ。

いつか、その辺の箍ァ取っ払って、砂ァ吐きそうなほど甘い話書いてやる・・・(暗い情熱)


あ。足の筋切ったくだりは、実体験です。
まったく切れたの気付かずに歩いてました。靴で固定されてたせいでしょうか。
アニメ版百介さんならではのネタですな(笑)



<04,02,01>









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