利休鼠〜りきゅうねず〜



京橋の大店。蝋燭問屋は生駒屋の若隠居、山岡百介にとっての日常は。
あまり興味を惹くものでは無い。
他人もまた然り。
あまり興味が無かった。
其れ故か、人様の顔というものが覚えられない。否、区別がつかない。
皆同じような物に見える。
市井の人々は大小幾つかの形に、役人は固そうな木片に。
それでも百介の生活には特に支障は無い。
係わるのは人ではなく、文書書物の中の妖怪を相手にしているからだ。

中にははっきりと区別のつく者も居る。
それはある程度係わりを持った人間か、または百介にとって興味ある事柄の関係者。

百介にとってこの世は、一様にくすんだ利休鼠の色合いに、時折違う色が見えるのを待っている・・・
そんな様に感じられた。

さて。
ここ最近。
くすんだ世界の中に、殊更色鮮やかに見える者がいた。
小股潜りの又市。
驟雨の中出合った彼は、酷く印象的で。
今の百介の心の大半を、占めていると言っても過言ではない。
特に気になるのはその口唇で。
気が付くと、目で追っていた。
口唇が・・・というのなら、行動を共にしているおぎんの方が余程目を惹く。
色白の肌に映える紅い口唇。
ぷっくりとして、触り心地も良さそうだ。
それなのに何故?目が行くのは違うのか。
小股潜りの得物は言葉。語り、騙って、化け物を湧かす。

時に荘厳に。時に淫靡に響く声をもって・・・

其れを紡ぐ口唇故に気になるのかとも思う。
触れてみたいと思うのも、其れ故かとも。
柔らかいのだろうか、それとも荒れて固いのだろうか。
熱いのか、冷たいのか・・・
例えば自分の手の甲に、枕に、花に口付けながら、そんな事を想った。




百介は宿屋の薄い布団の中で、何度目かの寝返りをうった。
はぁ、と。
小さく溜め息をつく。
建付けの悪い窓障子の隙間から、二十三夜の月が昇るのが見えた。
「もう子の刻かぁ・・・」
この真夜中に聞こえてくるのは、遠く吼える犬の声。
何を求めて吼えているのかと、百介は知らず苦笑を浮かべた。
「私だって、似たようなものだ・・・」
そう口の中で呟いて、また溜め息をつく。
求めて、求めて、遠吼えている。
しかもその相手は、今、同じ部屋に居るというのに、決してこの声は聞こえはしないのだ。
そして自分には口にする勇気も無い。ただ利休鼠色の世界でたゆとうだけだ。
ああでも、と隙間に昇る二十三夜月に思う。
夜半に昇るこの月を待ち、願を掛ければ叶うという。
それが本当なら、どんなにいいかと。

「眠れやせんか」
背中越しの問い掛けに、百介の身体は熱くなる。
「あ・・・すみません、又市さん。起こしてしまいましたか?」
「なぁに。奴
(やつがれ)も二十三夜の月を拝もうと思いやしてね」
「え・・・」
「何を願掛けしやした?先生」
「私は・・・何も・・・」
本当・・・ですかぃ?と思いの他、近くで声が囁いた。

その声は、とても優しく、とても淫靡で誘うが如く百介の耳朶を擽って。

幽かな月明かりの中、思わず伸ばした手は。

「あ・・・」
捕らえられた手の指先に触れる、感触
(もの)
愛惜しむように、揶揄うように、それは指の形を丹念になぞって行く。
触っているのか、触られているのか・・・
その感触に恍惚としながら、百介は目を閉じる。


利休鼠色の世界に
願いを叶える二十三夜の月だけが唯、煌々と

今の百介には、それだけで充分だった





〜了〜








えーと、えーと・・・

何故か又さんの口唇、めっさエロく見えるんですけど〜!
変ですか?変ですか?変ですか〜〜〜!(息切れ)

その辺を追求してみたかっただけの話
てか、ちっとも追求してませんがな(ダメじゃん!)

某麻の字サマに提出する『何故又さんの口唇はエロいか?』とゆーレポートの代わりなんですがぁ・・・

どうだろ・・・これは(爆)



<04,04,30>

























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