〜白昼夢〜


昼日中の街道で。
野辺送りの列に遭った。

百介は路の脇に避けて、頭を垂れた。
少し先では又市が、その御行振りに相応しく、殊勝気に鈴を奉げて佇んでいた。

白い幟がゆらゆらと風に揺れ。
葬列に加わる人々の顔は、皆一様に光に白く飛んで見えない。
それを見送っていた百介の視界が、俄かに狭くなる。

くらり。

辺りが急に暗くなった。


りん。

耳を掠める音に、百介は閉じていた目を開けた。
大きく枝を広げた葉の間から零れる木漏れ日。背中にあたるゴツゴツとした物は太い幹。
どうやら街道脇の古木の元に身を寄せているらしいと気が付いた。
そろりと頭を巡らせると、未だ日は高く、物の影は短い。
ふりそそぐ白い光の中、動くものは何も無く。
陰の中から見る外は、ただ白と黒の世界。
しん・・・として音も無い。
「あの音は・・・」
「音がどうか・・・しやしたかィ?」
思いの他間近で聞こえた声に驚いて、百介は身を起した。
途端に頭がくらくらする。
しゃらん・・・と錫杖の澄んだ音。
「おおっとぉ。暑さにやられたんでやすよ。まだ動かない方がいい」
「あの・・・」
「へい?」
「私はまた・・・ご迷惑を」
「なぁに・・・季節はずれのこの暑さだ。奴もちょうど休みたかったところでさ」
その声のする方に目をやれば、古木の陰から錫杖が覗いている。
百介とは背中合わせに、又市も木に凭れているらしい。
大きく枝を張った古木の作る陰は涼しく。
静かだった。

まるでこの世には、ここ以外何も無い様なほど。

「・・・又市さん」
「へい・・・」
「人は・・・死んだら何処へ行くのでしょう?」
「何です?藪から棒に」
「野辺の路を皆に送られ・・・何処へ行くのでしょうか・・・」
そう呟く百介の目は、先程の葬列が過ぎ去った先を見ていた。
「さぁて・・・」
溜め息混じりの又市の声だけが聞こえる。
「逝ける先が在るんなら、それはそれで・・・幸せでやしょうよ」

何処にも逝けず堂々巡りが・・・永遠に

「え?」
突然、目の前に被さるように白い翳。
「な・・・」
「先生」
翳が囁く。百介の好きな心地よい声で。

験しに一度、死んでみやすかぃ?

「はい?」
首に掛かる手。
少しづつ加わる力。
狭窄する視界は赤く染まり、そこには。

ただ又市の顔だけが見えて。

それに目を奪われたまま百介は。
自分の首を絞める細い腕を、ゆるゆると指でなぞり。
その顔を、引き寄せた。
「又・・・い・・・ち・・・さ・・・」
又市の唇に触れた百介の唇が、言葉を形作る。

きっと息の根を止めて下さいね・・・貴方の手で・・・

そう。
囁いて、うっとりと目を閉じた。



「あ・・・」
目を開けた時、影は長くなっていた。
「あれ・・・?」
百介は不思議そうに自分の身体を見回した。
「生きて・・・る?」
「どうしやした?先生」
伸びる影の先に又市の姿があった。
「又市さん・・・私は・・・」
「私は?ナンです?」
その表情は見えなかったが、声にはいつもの揶揄うような響きがあった。
「私は・・・死んだんじゃ」
「これァ又、奇な事を。それじゃァ此処に居なさるなァ幽霊で?」
「はぁ・・・」
極まり悪そうに呟いて、百介は自分の頸を撫ぜた。

ゆるゆると絞まってゆくあの感触
狭くなる視界
その中で見えるのはただ・・・彼の人の顔

甘い
死への誘い

百介は大きく溜め息を吐いた。
「先生。あまりの暑さに、白昼夢でもォ見やしたかィ?」
「白昼・・・夢?」
「ナンにせよ、夢でやしょう」

真にゃァ成りやせんよ・・・

そう呟く又市の声に、自嘲が含まれていたように聞こえたのは気のせいだったのか・・・


百介はもう一度大きく溜め息を吐くと、立ち上がった。




〜了〜 

<04,08,10>






暑さ故〜〜♪
なんか文体が投げ遣りな気がする・・・(なら直せよ)

とにかく暑さのあまり展開が凶悪。
うちの又さんは優しくないので(笑)百センセのご要望には応えられないとゆー・・・
まぁそんな話です。

(解説も凶悪だぁ・・・)













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