大阪夏の陣のため友人Kao.N宅に2泊3日
その間、黒地に花柄の古代布に包まれた又さんを横に
ず〜っと巷説の話ばかり

内容は『囚われの又市』

帰宅後、携帯メールで送られてくるわ送られてくるわ
あらすじとか言いながら連載だよ〜!
そんなワケで随時此処に記録しておきますだ〜よ(笑)

タイトルは
『篭鳥〜かごめ〜』です
<9/15 13:41改稿>

ふと気が付くと、百介は十畳程の座敷にひとり立っていた。
だが足裏に感じる筈の畳の感触が無い。
怪訝に思って下を見たが、そこにある筈の己の体が見えなかった。
百介は細く開いた襖の向こうに見える庭をぼんやりと眺めながら、あァこれは夢なのだなと心の隅で思った。
夢の中で夢を見ている事を自覚したのは初めてだ。
興味深く辺りを見回すと、何故か座敷の真ン中に唐籠が置いてある。
蓋が開いていた。誘われるように近づいて、そっと中を覗いてみる。
最初、人形かと思った。
それが人だと気付いたのは『それ』が己の良く知る人物だったからだ。
「又市さん?」
籠の中には、極彩色の着物に包まれて眠る白装束の御行の姿があった。
「又市さん!」
百介は己の叫び声で目が覚めた。

あれは夢なのだと確認する為に、百介は長耳とおぎんに己が見た夢の話をした。
笑い話にしたかったのだ。けれど、その話を聞いた二人は揃って顔をしかめた。
ちッ、と舌打ちをして長耳が言う。
「あの馬鹿」
「厄介だねェ」
おぎんが溜め息をつく。
もしやあれは正夢なのかとうろたえる百介に、おぎんが言った。
「いいかい、これは先生ェには関係のない話だよゥ。忘れっちまいな」
そして、二人は闇に消えた。
百介には信じられなかった。
又市があんなふうに囚われの身になる筈が無い。
不安に駆られて闇雲に又市を捜し歩いてみたが見つかるワケもなく、何処を捜せば良いのかも分からない。
百介は悄然と項垂れて生駒屋に帰った。
いつもの様に文机の前に座っても苛々と落ち着かない。
気を紛らわす為に筆を執り、夢で見た景色を描いてみる。
又市を包んでいた着物の柄も描く。
そこへ貸し本屋の平八が訪ねて来た。
百介の絵を見て、その着物の柄に見覚えがあると言う。
ある絵師が描いた美人画の遊女が着ていた着物柄にそっくりだと。
今持っているかと尋ねるとあると答えた。
是非にと頼んで見せて貰っている所に、版元の蔦屋が来た。
締切りを過ぎた原稿の催促に来たらしい。
蔦屋は二人の手元の美人画を見て、懐かしいねぇと目を細めた。
その遊女は身請けされて、今はある大店の囲われ者になっていると言う。
百介は藁をも掴みたい気分でその女を捜し方々を尋ね歩いた。

何の収穫もなく三日が過ぎた頃、いきなり侍に襲われ右手を怪我してしまう。
長耳に助けられ何とかその場は無事に逃れるが、怪我のせいで発熱してしまった。
朦朧とした意識の中で、百介は再び夢を見る・・・。

幼い少女と遊ぶ又市。
楽しげに笑う少女の顎には小さな黒子。
その黒子は美人画の女と同じ位置にあった。

二幕に続く。
やっぱクドイな。コレをまともに小説にすると、どこまでクドクなるんだらう?わくわく



「又市、さん」
夢の中で問い掛ける。
「何処に居るのですか?」
「・・・此処は先生のような方が来る所じゃア御座ンせん。早くお戻りなせぇ」
「又市さんも私と一緒に戻りましょう」
「奴は虜の身。どうかおひとりで」
何の感情も窺えぬ声に焦りが募る。
「長耳さんもおぎんさんも心配してるんですよ!私だって、どれだけ捜したと・・・」
己の言葉が目の前の御行に届かぬ事は分かっていた。
又市にとって百介の心の痛みなど、とるにたらぬものに違いない。
口惜しさに百介は俯いて唇を噛む。
「先生ぇ」
ふと気が付くと又市がすぐ傍らに立っていた。
「・・・どこか怪我でもなすったんで?」
「えッ」
「血の匂いがいたしやす」
「あ、いえ、ほんのかすり傷です」
咎めるような声音に、慌てて怪我した右手を隠す。
百介の手首を又市が捕えた。
手当てを受けた包帯に滲む血の色に又市の貌が歪む。
やれやれ、と溜め息ひとつ。
「利き手は物書きにとっちゃア大事な商売道具だ。無理をするもんじゃア御座ンせんぜ」
苦笑を刻んだ又市の唇が、緩慢と包帯の上から傷痕に触れる。
忘れていた刃傷の痛みがズクリと疼いた。
「ま、又市さん!」
思わず叫んだ百介の声に反応して周りの空間が騒めく。

『お兄ちゃん』

おとなしく一人遊びをしていた少女が、又市を呼んだ。
その声に又市が振り返り、あっさりと百介に背を向ける。
「先生・・・その右手が大事なら、これ以上深入りはしちゃアいけやせんよ」
脅しとも忠告とも取れる科白を残して又市は少女の元へ・・・。
「又市さん!」
又市の後を追おうとした百介の足下がいきなり消失。百介は・・・現世へ戻った。 


夢にうなされ起きた百。側にはおぎんと長耳の姿。
とりあえず百は今まで調べた事と今見た夢の話を二人に語る。
「まったく、何だって首を突っ込んだりしたんだい?そんな怪我までしてさァ。関わるなって言っただろぉ」
百を詰る言葉とは裏腹に、彼の右手の包帯を替えるおぎんの手つきはとても優しい。
「夢の少女は・・・」
又市を連れて行ってしまった少女。
百が必死に呼び掛けても振り返らなかった又市が、あの子の声には素直に従っていた。
夢の中で又市が触れた傷がズクズクと疼く。

あれは、警告。

表の世界に留まりたいのなら手を退けーと。
「この絵の女に・・・よく似ていました」
平八から買った美人画を見ながら、百が言う。
ひとりごとのようなその呟きに長耳が苦笑した。
おぎんが言う。その女には関わるな、そいつは八百比丘尼だと。

八百比丘尼・・・人魚の肉を食べて不老不死になったという女。

戸惑う百を置き去りに二人は再び闇に消えた。
目の前に引かれた境界線をもどかしく思いながら己の無力に項垂れる百。
そこへ平八がやって来た。あちこちから聞き集めたネタを得意気に披露する。
絵師の事。
美人画を描いた絵師は幼い頃から体が弱く、ほとんど外に出た事がなかったらしい。
襖の隙間から見える景色だけが全て。それを絵にする事だけを楽しみに生きていた。
絵師の描いた絵はまるで生があるようだった、と。
ある日、絵師は版元から美人画を描いて欲しいと頼まれた。
今評判の遊女の絵。絵師は承諾し、女を描いた。だが、描きあげた絵を残して絵師は行方不明となる。
平八の話を聞きながら、百は夢で見た景色を思い出した。
細く開いた襖の向こうに覗く景色。
あれが世界の全てだったのなら、その中に突然現れた遊女は絵師にとって天女に等しい存在だったろう。
絵を描きあげるまでの間に、いったい何があったのだろうか?
考え込む百には構わず平八の話は続く。
遊女を身請けしたのは薬種問屋の長崎屋だと。長崎屋では最近不老不死の妙薬を売っているのだと。
「不老不死の妙薬ですか?」
驚愕して尋ねる百に、平八は声を落として囁いた。
「大きな声じゃア言えませんがね、何でも人魚のミイラを手に入れたーとかで。大層な評判になっておりますよ」
人魚のミイラ、八百比丘尼、行方不明の絵師、百を襲った侍、薬種問屋の長崎屋、そしてー又市。
ズクズクと疼く右手を握りしめて、百介は立ち上がる。又市を捜す為に・・・。


却説、
又市を捜すと決めたのは良いが、百には何の策も無くどうしたものかと途方に暮れた。
手掛かりといえば、夢で見た景色を描いた絵と遊女の美人画、長崎屋の噂のみ。
百は蔦屋から聞いた絵師に美人画を依頼したという版元の近江屋を訪ねてみた。
絵師の絵が気に入ったので他にもあれば買いたいと申し出る。
絵は御座いませんと近江屋は言う。
絵師が行方不明になった後、彼の絵は全て身内である長崎屋が買い戻したらしい。
絵師は長崎屋の次男坊だったのだ。
そして、百が見せた夢の絵と同じ景色を近江屋が知っていた。
絵師が養生していた寮から見える景色とそっくりだと言う。頼み込んで何とかその場所を教えて貰った百。
そこに行けば、本当に又市に会えるのだろうか?
逸る心を押さえつつ、慌てて寮へと向かう百の後を何人かの侍が追っていた。
百はまったく気付かない。
百介が目的の寮に辿りついたのは、黄昏近く俗にいう逢魔ガ時の頃である。
本所横綱にある長崎屋の寮は、道ひと筋隔てた所が隅田川の流れ、隣は津軽藩下屋敷の広大なお屋敷、周りは鬱蒼とした樹木が生い茂ったまるで野中の一軒家といった風情の寂しい場所だった。
近江屋に聞いた目印を確認しながら冠木門を入る。
中を覗くと右手に庭へ通ずる枝折戸が見えた。
百は息を詰めて、忍び入る。家の中は森閑と静まりかえっている。
枝折戸には閂が掛かっている。仕方なく生垣を乗り越えた。
飛石づたいに奥へ進み廻り縁の角を曲がると離れ座敷が見える。
座敷の雨戸は開いていた。ぴたりと閉まった障子に手を掛け、中を窺う。
人の気配が無いのに覚悟を決めて、そっと障子を開いた。
中は薄暗く見えにくい。
何度か瞬きをして目を慣らす。どうやら座敷には毛氈が敷いてあり、大きな紙が広げられていた。筆立てには絵筆が数本立て掛けてあり、絵の具や筆洗いが転がっている。
つい今し方まで此処に人が居たかのような座敷内の様子に百は慌てて辺りを見回す。
座敷の奥、開き戸の前に籠を見つけた。
ズクン、と右手の傷が疼く。
家人に見咎められる事も厭わず百は座敷に上がり込む。
緩慢と籠蓋に手を掛ける。
耳元で煩い程に血が鳴っている。目を閉じて籠蓋を開けたー。
籠の中には、夢で見たとうりに極彩色の着物に包まれて眠る札撒き御行の姿があった。
「又市さん!」
やっと見つけた。やっと!
「又市さん!又市さん!又市さん!」
声の限りに彼の人を呼び
「又市・・・さん?」
返らぬ応えに絶望する。
「又市さん・・・」
血の気の無い色褪めた肌、固く閉ざされた瞼、そっと触れてみた頬がひどく冷たい。
どこかしら安らいですら見える又市の表情が、最悪の事態を百に予感させる。
我知らず溢れた涙が頬を流れ顎を伝い、ぱたたッと音を立てて籠上に落ちた。
「又市さん」
何度も何度もその名を呼ぶ。
「そンなに泣いたら目ン玉が溶けちまうんでねェのかい、先生ェ・・・」
背後から掛けられた声に、弾かれたように振り向く百。
その泣き濡れた顔を見て長耳がニヤリと笑った。
「長耳、さん」
呆然と呟く百介を、ちょいとごめんよーと脇に下がらせ長耳は籠の上に屈み込む。
徐に懐から御行札を一枚取り出し、又市の上に乗せた。
ボッといきなり札が燃え上がり、一瞬後消滅する。
次いでパチリと又市の瞳が開いた。
窮屈そうに籠から起き上がりながら「遅かったじゃねぇか」と長耳を睨む。
「首尾は?」
「上々」
何事もなかったかの様に会話する二人に、訳も分からず茫然と固まったままの百を見て、又市がいつもの笑みを浮かべて見せた。
「おや、先生ェ。どうかなさいやしたか」
「又市さん」
掠れた声で又市を呼ぶ。
「へぃ」
揶揄うような又市の声音に百の口から安堵の吐息が漏れた。
「ったく、人の忠告を聞かないお方だ。奴は、関わるなーと申し上げた筈」
呆れたように又市に言われて、そんな言い方はないだろうと百が憤慨した。
己には心配する事すら出来ないのかと怒る。
そんな百を凝っと見ながら又市は嘆息する。
「仕様のないお方でやすねェ」
又市はついと手を伸ばし濡れた跡の残る百介の頬を親指で拭ってやった。
硬直する百にキッパリと言い渡す。
「ここから先は奴等の領分。手出しは一切無用に願いやす」
又市は己の指をぺろりと舐め、塩辛い味に苦笑う。
「又の字よゥ、関わるなと言っても、もう手遅れなんでねェの」
くぃっと首を傾げて庭を見やりながら長耳が言う。
軽く肩を竦めて又市が「違ェねぇ」と応えた。
えッと百介が庭を見ると、幾人かの侍が殺気立って飛び出してきた。
侍は無言のまま抜刀し、構える。
「ま、又市さんッ」
「先生ェ、絶対に此処を動かねェでくだせぇやし」
「は、はいッ!」
こういう時、自分がいかに役たたずなのかを百介は嫌というほど知っている。
荒事は苦手なのだ。
キツク目を閉じ、邪魔にならないように座敷の隅に蹲る。
凝乎っと待つ事、数分間。
「先生ェ」
「うわっ、は、はいっっ」いきなり耳元に又市の声で囁かれ、百介は焦った。
慌てて目を開けると又市が己を覗き込んでいた。
「大丈夫でやすかい」
「はい」
頷いて辺りを見回す。侍の姿は何処にも無い。
死体も無い。
それでは殺さなかったのかと安堵する百介を、又市が薄く笑って見ていた。
「却説、行きやすか」
「ど、何処へ?」
あまりに急な展開についていけない百介。
「妖怪退治でさァ」
そっけない応えに唖然とするばかり。

リン。

闇夜の中、鈴の音が響く。
長崎屋は帳簿から顔を上げ庭の方を見た。

リン。

促すように再び鈴が鳴る。
長崎屋は緩慢と立ち上がり庭に続く襖を開けた。
闇に浮かぶは白装束の御行姿。
「お久しゅう御座います、藤兵衛様」
又市が深々と頭を下げる。
「御行殿。目醒められたのか」
驚く長崎屋を又市は無言のまま凝乎っと見ていた。
長崎屋は居心地悪げに目を逸らす。
「御行殿がいないと比丘尼がぐずる。そなたには申し訳ないが、もう一度眠って頂きましょうか」
「何故、奴を?」
又市の問いに苦笑を浮かべ、長崎屋が答えた。
「比丘尼の望みで御座います。魂を無くして夢の中に生きる女が惚れた男を望んでも、罪にはなりますまい」
その声には憐憫の情が窺える。
「何故で御座いやす?藤兵衛様。八百比丘尼はただの人。その肉を人魚の肉だと偽って世間を謀るなんざ、まっとうな商売人のやる事じゃァ御座ンせん。長崎屋ともあろうお方が浅慮な」
「息子の為です」
長崎屋の苦渋に満ちた瞳が又市を射る。
「幼い頃から体が弱く病に臥せてばかりだった息子の唯一の楽しみは、絵を描く事だけで御座いました。あの子の描く絵はまるで命があるようだと皆が誉めてくれた・・・」
長崎屋は自嘲の笑みを浮かべる。
「いつからか・・・あの子が描いたモノは全て、絵に魂を吸い取られたように生気を失い、残るのは造り物のような外見だけ。花は造花のように、鳥は剥製のように、そして人は・・・」
躊躇う言葉を又市が継ぐ。
「生き人形のように」
絵に魂を奪われ不老不死の生き人形と成り果てた遊女を、長崎屋は身請けして辺鄙な所に建てた寮に匿った。
だが、何年経っても老けない、変わらない女の姿に気付いた者がいた。
津軽藩奥家老、根黒九斎である。
根黒は長崎屋に不老不死の秘密をあかせと脅迫したのだ。
息子の力を知れば、根黒はそれを利用しようとするだろう。
それを避ける為に長崎屋は嘘をついた。
あの女は人魚の肉を食った八百比丘尼だと。
根黒は言った。その肉を食わせろーと。
人魚の肉などあろう筈もなく、何を食わせたとしても根黒は疑い信じないだろう。
長崎屋は賭けに出た。
八百比丘尼は人魚の肉と同化した。比丘尼を食えば同じ効果があるに違いない、と根黒に信じ込ませたのだ。
比丘尼は痛みを感じない。
長崎屋は彼等の前で比丘尼の肉をそいで見せ、それを饗したのだ。
「惨い事を・・・」
又市、嘆息
。「親馬鹿だとお笑い下さい。けれど、どんな事をしても息子だけは守りたかったので御座います」
「親が子を思う心を笑う者はおりやせん。なれど、罪なき女を切り刻み、苛んだのは事実。その罪は罪。償わねばなりますまい」
しゃらん。
又市が錫杖を鳴らす。
それを合図に奥続きの襖が開いた。
現れたのは、おぎんと八百比丘尼にされた女。
女の両腕には血の滲んだ包帯が巻かれている。
又市の姿を認めて女が笑った。
嬉しそうに又市の側に駆け寄り抱きつく。
すりすりと懐く女を宥めるようにその頭を撫でてやり、又市は耳元に囁くように女の名を呼んだ。
女の目が一瞬正気を取り戻す。
又市は頷いて偈箱から札を取り出し女の手に握らせた。
いつの間にか現れた長耳が又市に一枚の絵を手渡す。
美人画の元絵である。長崎に匿われていた絵師の元から長耳が奪ってきたものだ。
「御行奉為」
又市の手の中でいきなり炎が上がる。
美人画はあっと言う間に燃え尽きた。
うっとりと女が微笑む。
腕の中で膿み腐れ崩れていく女を、又市は最後まで確りと抱き締めていた。
「欲に駆られて女の肉を口にした輩は今頃罰を受けておりやしょう。後は・・・」
長崎屋は毅然としていた。
「覚悟は出来ております。けれど不憫なのは我が息子。後を頼んでも宜しいか、御行殿」
真っ直ぐに切り込むような長崎屋の強い視線を受け止めて又市が頷く。
「承知しやした」

しゃらん。
と錫杖が鳴る。

りん。
と鈴の音が響く。

「御行奉為」



「結局、全ては仕掛けだったのですか?」
憮然とした顔で百介が問う。
もしそうなら何故何も教えてくれなかったのか、知らなかったが為に自分がした事は仕掛けの妨害だったのではないかと百介が憤慨する。
「先生ェ、奴は関わるなと申し上げた筈ですがねぇ」
ぐっと言葉に詰まる百介を見ながら、又市は口の端に笑みを浮かべた。
「こいつは仕掛けなんかじゃァねェ。ただの、後始末ってェやつで御座いやすよ」
「後始末?」
百介が問う。
「あの女はね、そこの小股潜りが吉原にあげたのサ。妹弟を口べらしさせない為に身売りしたんだよ」
よくある事さァとおぎんが言う。
「女が生活の為に体ァ売るのは珍しい事じゃねぇ。ただね、女をあの絵師に会わせたのも奴なんでさァ。此の世に未練なんざァねぇが、己の不始末はカタぁつけてやらねぇとね」

暫くの間、江戸には奇妙な病が流行した。
その病に患りし者、臓腑が生き腐れていくという恐ろしいものだ。
薬も効かず病に患れば必ず死に至る。
二桁に上る死人が出て、人々は怖れ戦いた。
だがその病は半月程で収まり、皆を安堵させた。
長崎屋藤兵衛もその病で亡くなったという。店は長男が継いで立派に切り盛りしている。
次男坊は行方不明のまま。巷では、これは人魚の祟りではないのかと噂になっている。
「それで、絵師はどうなったんですか?」
「さァてねぇ」
嫌そうに言葉を濁す又市を、百介が不思議そうに見た。
くつくつと笑いながら長耳が言う。
「横取りされちまったのさァ。あのお方によォ。小股潜りが遅れをとっちまったてェこった」
面白がる長耳を又市が睨む。
「珍しモノ好きな方でやすからねェ。後手に回ったこちらの落ち度。仕方ありやせんや」
それで良いのかと呆れる百介に、又市は肩を竦めてみせた。
「いずれ人の世じゃあ暮らせねぇ男だ。絵師にとっては良い事かもしれやせん」
絵師は己の所業を悔いてはいても、どうしても絵筆を捨てられずに苦悶していたという。
京極亭という免罪符を得て、今は心安らかであろう。
「人にあらざる力を持つってぇのはあまり楽しい事じゃァねぇ。これで良いんでやすよ」
絵師は、絵を描く事でしか人と関われなかったのだろうか。
百介は、ふと己が見た夢を思い出す。
「夢の中の少女は、幸せそうでしたね」
綺麗な庭の側で大好きな又市に遊んで貰って、少女は幸せそうに笑っていた。
「そうでやすかい」
「彼女の、名は?」
「つぐみ、と」
又市は空を見上げ、眩しげに目を細めた。
片手をかざして日差しを遮り、「眩しいやねェ」とポツリと呟く。
「奴に関わった者は、皆死んじまう。これも業ってやつなんですかねェ」
又市は、にんまりと微笑って百介に背を向けた。おぎん、長耳が後につく。
「いいですかい、先生ェ。今後は奴共がどこでどう果てようと、心を残しちゃァいけやせんぜ」その言葉と共に小悪党達は消えた。
「・・・又市、さん」ただひとり、百介を残して。

           *   *   *   *   *

『どうなさいました、又市さん。ずいぶんとお疲れのようで御座いますねェ』
「なァに、たいした事ァ御座居やせん。ちぃと昼寝が過ぎやしてね。夢見が悪いだけで御座いやす」
『それは重畳。何事も、あまり無理をなさいますな。それが、命取りともなりましょう』
「御忠告、確と覚えておきやしょう
」『あぁ、そういえば又市さん。小鳥を逃がしてやったそうじゃアありませんか。良い事をなさいましたね』
「そちら様は、面白ェ手駒を手に入れたーとか。物好きなお方だ」
『ふふふ、貴方の御陰で良い駒が手に入りました。お礼を申し上げねばなりますまい』
「どうなさるおつもりで?」
『却説、どうしたものかと・・・』
「お戯れも過ぎやしょう」
『人の欲とは際限の無いもの。人は自ら闇を生み、育む。此の世で一番深い闇は人の心だとは思いませんか』
「闇の中で光を求めてもがくのも、また人で御座いやす。手の平で弄ぶ命に足下を掬われねェようにお気を付けなせェやし」


よっしゃ、終了!お疲れさん。感想を待ってるわん?

,<04,09,10>

ごくろーさん!!ガンバッて絵にするぜぃ!待っててくれぃ





        なんとなく描いてみる・・・
   











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